エリア情報
滋賀県といえば琵琶湖。日本最大の湖を中心に、周囲にそびえる伊吹・鈴鹿・比良の名峰から流れ出る多くの河川や伏流水。これらは繊維産業にとって要である豊富な水の供給源となり、四大天然繊維のうちの三種類、「綿・麻・絹」をたった一つの県に集中させています。
その中でも湖東は、室町時代より麻織物の一大生産地として発展してきたエリア。麻糸は乾燥に弱く、織物を作るためには適度な湿気が必要。豊富な水をたたえる琵琶湖からの水蒸気や山に囲まれた地形から発生する霧など、麻の織物づくりを支える自然環境が整っていたことで、産地として大きく発展してきました。
江戸時代には、彦根藩が良質な麻織物の「高宮布」を保護・奨励し、将軍家への献上品としたことや、近江商人が行商で全国各地へ広め、その極上の手触りと品質が使い手に伝わったことで、麻織物産地としての湖東の名は不動のものに。現在は伝統技術を継承しつつ、時代に即した発想と感性で提案型の商品開発を地域全体で行っています。
湖東繊維工業協同組合 / 社屋
ブランドストーリー
今日の湖東の麻織物は、幻の「高宮布」を起源とした伝統的な手織りの「近江上布」と、機械や新技術を使いデザイン性や使い心地を高めた「近江の麻」・「近江ちぢみ」に大別されます。
作り方によって「生平(きびら)」と「絣(かすり)」に分かれる「近江上布」ですが、生平は大麻の繊維を細かく割いて細い糸にするところからすべて手作業、絣は近江独自の技法で先染めした経糸と緯糸を正確に合わせて織っていきます。膨大な時間と職人技で生み出される上質の近江上布は、1977年3月に国の伝統的工芸品に指定されました。
一方の「近江の麻」・「近江ちぢみ」は、伝統を守りながらも麻以外の天然繊維・合成繊維・新素材や新たな加工技術を取り入れ、日常使いで長く愛用してもらえる地域ブランド。例えば、仕上げ工程の揉み込み作業で独特のシボ(しわ模様)を作る「近江ちぢみ」は、もともと吸湿・保湿性や通気性に優れた麻にシボの特性を加えることで、肌への接触面積を減らしてより爽やかで着心地の良い素材となっています。
このように、文化的遺産の伝統織物と現代生活に密着した使いやすい織物の両輪で、歴史や伝統を守りながらも、変化していく時代のニーズに応える新商品を積極的に生み出し、未来を見据ているのが湖東です。
開発秘話
2019年ごろから、残布や生地サンプルでアップサイクル事業を手掛けてきた湖東。「残ったものを蘇らせる、余分なものを作らない、今あるものを活用する」ことをテーマに、染め直しや機能性の追加など新たな価値を加えた素材で雑貨や小物などを創作・販売しています。また、麻と琵琶湖の葦を混ぜて作った混合繊維での商品開発にも取り組んでいます。
これは、かつての近江商人も大切にしていた「三方よし」の考え方を受け継いだ活動。自己の利益だけでなく、関係するすべての人々が幸せになれるような商品を扱う「買い手よし、売り手よし、世間よし」の精神は、現在世界中で取り組まれているSDGsの概念そのもの。
トレンドだけを追いかけるのではなく、こうした考え方で産地を盛り上げたいと思っていたところ、「DN・猫アースプロジェクト」の話が舞い込んできました。目指す未来・考え方が似ていることに共感いただき、小さな一歩でもまずは踏み出してみたいと快諾くださいました。安易なモノづくりはしないという信念と、すでに着手していたアップサイクル事業を活かし、麻特有のシャリ感のある涼し気なはぎれネズミが誕生しました。